※なんとなしにナッシュが生きてて我が物顔でラシードの屋敷で同棲してるⅥ次元設定。
めくられたカードが、細い綺麗な指でとんと軽く叩かれた。
「貴方は迷いある人生を歩むようですね」
特に返答はしない。オレはカードの正位置がこの人から見た場合なのか、こっちから見た場合なのかをぼんやり考えてた。頭が上手くまとまらないのは、狭い部屋に纏うアロマの所為かもしれない。
「それに・・・・・・大いなる器を持つ、とも出ています」
オレは初めて頭をもたげた。
「なーんて言われちゃってさ」
屋敷の部屋。夜も深まった頃。旦那への土産話は、そんな話から始まった。
「はあ・・・・・・」
やれやれといったため息と共に、旦那は片腕で机に頬杖をついた。
「何だよ」
「初めて行った国で見知らぬ占い師にほいほい誘われた挙げ句怪しい部屋で好き勝手言われてるお前に呆れてるんだよ」
「それは・・・・・・そーいえばそっか」
「お前なあ」
あまりにも雰囲気があったものだから気軽に話に乗っちゃったけど、よくよく考えれば危険だったかも。でも本当に映画のワンシーンみたいだったんだよな。あの人の誘い方。
「まあまあ、アザムも近くに居たし、結果何事もなかったわけだし」
なんだかんだ料金も健全だった。いかにもな占い師に占ってもらった結末としてはあっけないものだった。
「それにしてもさ、占いって人相を見てそれっぽいことを言う、みたいな話もあるだろ? やっぱにじみ出てるのかなー、王サマ的なオーラってヤツが」
旦那は変わらず「くだらない」といった顔をしている。占いは信じない派なのかな。でも、時代が違えばオレがそういう地位にいたことは違いないのだ。それをピタリと当てられれば、なんとなく信じてしまいそうになる。もしかしたらこれが占いの本質ってやつかもしれない。
珈琲の残りを旦那は一気に煽った。まるで映画で観たヤケ酒みたいだ。
「オーラがどうこうというなら、私のはさぞ陰気だろうな」
「・・・・・・というと?」
「ローズだの誰だの、私の未来の占いで良い結果を聞いたことがない」
「あちゃあ」
そうきたか、と目線を逸らす。こういっちゃダメだけど、旦那幸薄そうっていうか。オレが占い師だとしても同じ事言っちゃいそう。実際、生き急いでいた過去もあるわけだし。でも、でもなあ。
バツの悪くなった雰囲気を、珈琲を飲むことで一旦ブレイクさせる。考えるのは、旦那の未来のこと。お先真っ暗、なんて言われた日には、オレでも良い思いはしない。
「やだな」
旦那に、彼に、これ以上苦しいことが起きるなんてまっぴらだ。何かオレにできることがあればいいのにと切に思う。この人はもう充分、運命に翻弄された。だったらもう、自分で道を選べるべきだ。
ぼんやりと考えていたら、オレをずっと見ていたであろう旦那がはっきりと言った。
「安心しろ、信じちゃいない」
それは投げやりというには程遠く。
「未来は『今』だからな」
電撃のような驚きでカップを落としかけた。しっかりと慎重にソーサーに置いた後、興奮そのまま前旦那へ前のめりにつめよる。旦那はさっきの優しい表情が嘘みたいにつんと顔を逸らした。
「ねえ! それってオレがいるからって意味!?」
「深夜にうるさいぞ」
「占ったのは過去だからって意味だよな!?」
「ノーコメント」
「旦那~! 王からの命令! 答えてくれよ~!」
「誰が王だ、誰が」
静まりかえった屋敷で、ふたりの応酬が続く。何度聞いても答えはなくて、それが許される時間がずっと楽しくて仕方ない。茶化し茶化されの中で、オレはいつ「オレも今すっげー幸せ!」と言うか、迷っていた。