※なんとなしにナッシュが生きてて当たり前のようにラシードの屋敷で同棲してるⅥ次元設定。
「なんで私には『w』でリュウには(笑)なんだ」
「人のスマフォ覗かないでもらえますー?」
「聞いているのはこっちだ」
「強情張り。リュウはさ、『w』なんて送ったら真面目に意味を訊いてくるだろ。絶対。だからわかりやすい方にしてるってワケ」
「私も始め分からなかったぞ」
「旦那はほら、流れで察してくれるかなって」
「・・・・・・」
「何? 納得してない? も~仕方ないなぁ今度から旦那だけハートマークにしてあげるからさ、なんて」
「それで頼む」
「・・・・・・え? マジ?」
「・・・・・・仲睦まじいようで何よりだな」
「人のスマフォは覗くものじゃないぞ、ガイル」
ーーー
ラシードの奴が何度目かのナイシャールへ行った。屋敷に居るときはだいたいひっつかれているので、脇腹に違和感がある。適当にクッションをとりあえず挟んでみる。まあ、良い堅さか。
良く言えばフレンドリー、悪く言えばパーソナルスペースゼロ野郎のラシードは、人との距離感が物理的に近い。初対面でもいざ知らず、親しい相手なら尚のこと。貴方に興味がいっぱいです、と全身でアピールしてくるのだ。
それに比べて、クッションはべらべら喋らないのが良い。私が本を読んでいても色々訊いてくることはない。急に元気いっぱい暴れ出すこともない。構って欲しいと無駄にくっつくこともない。マンゴーの甘ったるい匂いや、上等な珈琲の香りもない。ないないづくしの良いことづくめ。
「な、訳ないな」
ぽい、とクッションを投げ捨てる。やれやれ、お前のせいだぞ。文句でも言ってやるかと、私はスマフォを手にした。
ーーー
「オレのイウサールと本場の竜巻、どっちが勝つと思う?」
パソコンに向かって真剣にそう訊くラシードを、無言の圧で責める。多分此奴は今、動画のネタに困っている。そんなときは大体、とんちきなアイデアがでてくるのだ。
「いや、うん、しないから。しないしない」
「『竜巻 回転方向』で調べてるにベットだ」
「あはは~~・・・・・・あんたの勝ち」
呆れた奴。動画配信がなんたるかは知らないが、そこまで身体を張る必要があるのか。何時の時代も刺激が求められるということか。
「つーか、旦那もなんか考えてよ。オレが映えそうなヤツ」
断る、と言いかけたが、はたと気付く。何かと迷走しがちな此奴をコントロールできるチャンスではないか? と。ふむ。可能な限り安全で、炎上しなさそうで、可能なら適度に伸びなさそうな内容・・・・・・。
「ないんじゃないか?」
「失礼だなあんた」
ーーー
「も~~~この対戦相手」
(怒ってるな)
「エイム完璧だし、キャリーもしてるし、相手が居るところ的確に見極めてるし、ULTの使いどころもちゃんとしてるし、キルもサポも勿論トップだし、これでソロっぽいのってマジなワケ!? 上手すぎ!!」
「怒ってるのか褒めてるのかどちらかにしろ」
「どっちもっ!!」
「そうか」
ーーー
「 」
眠りから起こそうとした手が止まった。知らない名だった。こんな時、自分の察しの良さが呪いのように思えてくる。例え夢の中でも、逢えるのであれば。まるで温い歌詞のようだ。
躊躇っていた手をラシードの胸に置き、軽く揺する。
「起きろ」
その場にいることを、お前自身が許さないだろう。起きて、歩み続けろ。
ゆっくりと彼の目が開く。瞳の光がいつもより多いことを、私は言及しない。
ーーー
時折、ナッシュへ電話をかけることがある。軍が得たシャドルーの動きや、たわいのない雑談などをよくしている。今回はどちらかというと後者よりで、笑いも交えながらやりとりをした。気の置けない仲との会話は良いものだ。
娘についての会話、というより愚痴が一段落したのち、ふと切り出した。
「ところでどうなんだ、あいつとの関係は」
何か飲んでいたのか、咽せるような声が響いた。
「おい、大丈夫か」
「急に変なことを言うからだ」
「気になるだろう、友としては」
ナッシュのことは理解しているつもりではあるが、ラシードの方はまだ知り合って浅い。清々しい印象はあるが、果たしてどうなのか。
「喧嘩はまあ、してないな」
「ほう」
「向けられる好意も如実だ」
「ほほう」
「私は・・・・・・私も」
「ほうほうほう」
「ガイル、お前、面白がってるな?」
「面白いからな」
さりとて、こう話してみると関係は順調と言えそうだ。彼の今の身体や、性格のことを思えば、もっと複雑になってもよさそうではあるが、ラシードの真っ直ぐな心根が上手く平坦に働いているのだろう。
「愛する気持ちを忘れないことだな。それが一番だ」
「お前にそんなことを言われる日が来るとはな」
「経験者の意見だ。胸に刻んでおけ」
刹那、電話口から盛大なくしゃみが聞こえた。そしてもうひとつくしゃみ。明らかにナッシュのものではなく、そして明らかに彼の近くに居る。
ナッシュがやれやれという口調で言った。
「すまない、寝る前に何度も服を着ろと言ったのだが、暑いだの身体がだるいだのとわがままでな・・・・・・」
「いや、お前」
「さっさと起こして風呂にぶちこんでやるさ。じゃあな。また電話してくれ」
通話はそこで切れた。呆然、とは今の状態のことだろう。
「余計なお世話だったか・・・・・・」
呟かずにはいられなかった。空を見上げ、遠き地にいる友を想う。あと、次ラシードに会った時、どんな顔をすればいいんだとも。今日の空はやけに青く、そして、澄んでいた。
ーーー
「もしオレが記憶喪失になったらさ、どうする?」
「病院に連れて行く」
「え~実直。ありがと。じゃなくて」
「何だ。記憶を取り戻すために私に奔走して欲しいのか?」
「そういう言い方だとなんかやだなぁ。あんたを縛ってるみたいでさ」
「はあ。自信を持て。私がお前に縛られてもいいと思ってるとな」
「旦那・・・・・・」
「・・・・・・」
「急にデレるのも恥ずかしいからなんかやだ」
「おい」
ーーー
ソファでうたた寝をしていたら、今回のディージェイの新曲めっちゃいいよとラシードに無理矢理ヘッドホンを装着させられた。聴くだけ聴いてはみるが、相変わらず濃すぎる。私には合っていない。眠気もすっかり飛んでいった。
無言でヘッドホンを返す。それが感想だとラシードに充分伝わったらしく、彼は首を傾げながら受け取った。
「旦那って結構、こういうの苦手だよね」
「好みは人の勝手だ」
「あと・・・・・・熱血とか、根性論みたいなの。前の映画とか苦い顔してた」
「ついていけんからな」
「まあ、オレもちょっとあれはね」
ラシードがスマフォを取り出した。ミュージックアプリの画面をこちらに見えるようにして、にこりと微笑む。
「嫌いなものよりさ、好きなものの話しようぜ。旦那は何が好き?」
お前、なんて言ったら、困るだろうな。