※なんとなしにナッシュが生きてて当たり前のようにラシードの屋敷で同棲してるⅥ次元設定。
オレは世界を救ったヒーローになった。なりたかったわけじゃなくて、オレにとって「当たり前」のことをいーっぱいやったら、結果的に世界が救われた。それだけ。だから「これからは親愛なる隣人になる!」とか、そんなご大層なことは全然無くて。昔と同じように、オレは動画撮影を続けている。楽しいし、何よりオレしかできるないことだ。人気の方はまあ、アザムと比べたらね。でも、こうしてできることをして、一体オレは何処に行くんだろう、なーんてよく考える。
おお、青い空。愛すべき我が祖国の空だ。ぼこぼこにされた身体も癒やされる。いや、やっぱり鼻先にソニックは痛すぎた。イケメン顔、台無しになってない?
「いつまで倒れているんだ」
ぼこぼこにしてきた主が歩いてやって来た。澄ました表情を見るに、オレの顔は無事みたい。
「あんたが容赦ないから」
「全力でこいと言ったのはお前だ」
中々立ちあがろうとしない此方を見かねて、ナッシュの旦那はオレのすぐ横に腰を下ろした。唐突に「ちょっと闘って!」と頼みこんで、理由もろくに言わず屋敷の庭へ連れ出したというのに、怒ってないんだろうか。
「あー、今日いい空だねぇ」
口に出して褒めたからか、いい風も吹いてきた。程よい疲労感にゆっくりした午後。隣には優しい想い人。何かを考えるには、絶好の機会だ。
「旦那はさ」
「ん?」
「どうしてベガを倒そうと思ったの」
目標は世界征服。オレたちが戦ったのは、まさに「悪の親玉」だった。正直な話、そんな存在に自分が関わることになるとは思ってもみなかった。そりゃあ、オレにできることがあれば世界征服なんて止めたいし、今回の場合は運命的に在ったわけだけど。でも、旦那は違う。
「今日帰ったのは・・・・・・確かメトロシティからだったな」
「そう」
「ガイルから何か聞いたな」
「・・・・・・ちょっとだけ」
旦那の言うとおり、オレは昨日までメトロシティにいて、ガイルの旦那と少し話をした。過去についてだ。軍の腐敗を知り、決起し、ベガと戦った衝撃的な過去。ナッシュの旦那は、今の身体になる前から運命に飛び込んでいき、そして命を失った。
ベガを止めることは、世界から彼に課せられた使命というわけではない。避けようと思えば避けられる運命だったはずだ。だったら、その原動力は、一体何?
「後であいつは叱るとして、だ」
わしわし、と音を立てて頭を撫でられた。扱いが犬みたいだ。
「正義が私の全てだった」
彼はそこで一息ついた。
「迷いなんてなかった。私の正義を貫くために、ベガを倒す必要があった」
「でも、でもさ」
勢いよく半身を起こし、座っている旦那の方へ詰め寄る。
「その『正義』ってのは、何処から来たんだよ?」
彼の蒼い目を真っ直ぐに捕らえた。オレはどこからどうみても焦っていて、旦那は眉ひとつ動かさなかった。答え次第で、オレの迷いが消えると思うと心臓がバクバクした。長いような短いような間が経って、旦那はこう言った。
「さあな」
腕から力が抜けて、思わず地面に突っ伏す。あ、まだ鼻先痛い。
「なんだよそれぇ・・・・・・」
「考えるまでもないからな」
「全然答えじゃない」
顔を上げると、また頭を撫でられた。さっきと違って随分優しかった。
「そんなものだ」
そんなもの。そんなもの、なのかなぁ。でも旦那がそうなワケだしなぁ。思考を途方もなく進めていると、旦那はさっさと立ちあがって屋敷に先に向かっていった。
「あっ、ちょっと待ってよ!」
「お前次第だ。精々迷え」
すたすた歩く彼を急いで追いかける。不思議なモノで、一度歩き出せばさっきまでのモヤモヤが全部消えていた。きっとこれが「オレ」なんだろうな。爽やかな気分そのまま、オレは全部分かっていただろう背中に飛び込んだ。