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小ネタ10

※なんとなしにナッシュが生きてて当たり前のようにラシードの屋敷で同棲してるⅥ次元設定。

 

 

 屋敷に猫が入り込んだ。我が家の厳重な警備を乗り越えるとは、なかなかやりおる。使用人達は猫派が多くて、そりゃもうメロメロになっちゃったんだけど、猫ちゃんはナッシュの旦那が気に入ったらしい。

「離れろ」

 旦那の塩対応は誰にも問わないみたいで、ひっつかれる度にぺっと剥がしてる。毎回律儀に一言言うもんだから、見ている側としては面白い。

「そういうさ、冷たいところが逆に好かれるんじゃない? 上下関係的な? あんたがボスでーす、従いますごろにゃーん、みたいな」

「だったらあいつに従え。一応偉いぞ」

「一応って何さ」

「そら、しっし」

 お、ボス命令だから従った。あらー、柔らかくてあったかいね。おめめきゅるきゅるだね。よしよし。

「袖にされた同士、仲良くしようね~」

 おい、コラ、と背後から聞こえた。オレは華麗に無視をした。

 

ーーー

 

「派手に負けてきました~」

「ボロボロだな」

「いやあ、オレもエレナみたいに回復するような技覚えた方が良いかな」

「技が多ければいいってもんでもないぞ」

「サン・シャイニング・・・・・・いや、ムーン・ライト」

「技名から考えるな」

「ホーリー・ラシード・リカバー・・・・・・」

「・・・・・・トラジディ」

「何か言った?」

「いや」

「いーや、絶対可愛いこと言った。あっ、逃げた! 旦那ー! ステルスダッシュは卑怯だぞー!」

 

ーーー

 

 ナイシャールにいるラシードから電話がかかってきた。もしや問題が? と思ったが、「最近弟子ができたんだ」というなんとも力の抜ける報告だった。

「すっごい成長が早くってさ。この前なんてヨガをマスターしてて」

 強くなりたい。そんな理由で旅をしているらしいその弟子は、とにかく技の吸収が早いらしく、でも撮影は下手っぴ、とのことだ。まあ、平和で結構。

「追い越されないようにな、『師匠』」

 ぐぬ、とだけ返ってくる。

「スマートに、なんてゆめゆめ考えるなよ。毎日の鍛錬だ」

「アザムにもおんなじこと言われたよ。ちぇ」

 青春真っ盛りの若人か。この国の太陽より眩しいな。

 いや、この発想は流石に年寄り臭いか?

「そういや、ふたりでお互いに動画撮りあったんだ」

 動画がぽんと送られてくる。なるほど、こいつが弟子か、と思ったのもつかの間。技を振った途端一瞬で画角からいなくなり、次にラシードが映ったと思ったら砂嵐で何も分からず。最後はカメラが倒れてるのも気にせず画から遠~~~くでファイトに励んでいて・・・・・・。

「・・・・・・毎日の鍛錬だな」

「どういう意味?」

 

ーーー

 

 ちょっぴり怪しい女の人、大分おっかない女の人、冷血そうな男の人、そしてオレと付き人のアザム。これから世界を救いに行くパーティにしては、あんまりだなと思った。案の定パーティはすぐバラバラに散っちゃって、シャドルー基地内部という、ラスボス手前みたいな場所でもオレとアザムのふたりきりだった。

 長い、無機質な廊下を必死に走る。どれだけ急いだって良いけれど、どれだけ急いでもダメな気がした。探しても探しても、アイツの姿は見当たらない。世界だっていつの間にやら大ピンチだ。こんな時、ヒーローなら仲間を鼓舞して、絶対に良い方向へ導けるのに。今のオレは、只の、オレってだけだ。

 曲がり角に、見知った人を発見した。ボロボロだ。とりあえず手を伸ばしてみたが、そっけなく無視された。聞く限り、ベガを倒すことは叶わなかったらしい。傷だらけになっても、ベガを追う執念。オレには無い、筋の通った強さ。

 こんな強い人になら、話せるかもしれない。オレの目的、過去、そして、不安。そう思って、「アイツ」と口にすれば、その人は反応してくれた。

 なんだ、全然冷血じゃないじゃん。じゃあ聞いてもらおうかな。オレが、「逆巻く風のラシード」っていう、ヒーローに戻るための演説を。

 

ーーー

 

「固っ苦しいのは苦手なんだけどね」

 ラシードが思い切り背を伸ばすと、身につけた装飾品が艶やかな音を立てた。今日の午後に年一の大事な祭典があるらしく、国の伝統的らしき衣装を着ていた。

「どーお旦那。この格好に何か皮肉のひとつでも?」

「私をなんだと思ってる」

「馬子にも衣装、いや、猫に小判とか?」

「よく似合ってるぞ」

「そう? へへ」

 冗談抜きで様になっている。絢爛な貴金属、繊細な刺繍の服、そのどれにも負けていない。王族の血がそうさせるのか、はたまた別の要因か。

 兎角、活き活きとして、美しい。

「そろそろ行かなきゃ。旦那、お留守番宜しくね」

「はいはい、行ってこい」

 大人しくしてろよ、とは言えなかった。いっそのこと台無しになれ。そう思う自分がいる。何時からこんな面倒な男になったか、しんと静まった部屋が私を観ていた。

「猫に小判か」

 ――そんなことない。

 あいつか私か。どちらへ言ったにせよ、そう怒る奴の声が聞こえて、自然、笑えた。

 

ーーー

 

 ナッシュの旦那はよく本を読んでいる。オレにはちょ~っとむつかしい学問書だったり、はたまた最新のSFだったり、かと思えば昔ながらの童話だったり。新旧内容問わずな所もだけど、旦那の読んでる様ときたら、それはもうカッコいいのだ。

 

 今日の旦那はベッドの上で完全読書モードだ。折角オレが横で寝てるのに全然構ってくれない。手持ち無沙汰なオレは、山積みの本から適当に一冊抜き出した。『罪と罰』、おや。

「こういう名作はもう読んでるのかと思った」

「生涯で読める本の数を考えてみろ」

 確かに。映画好き全員がフォースと共にあるわけじゃない。ナイシャールで弟子にネタを振ったら首を傾げられたのを思い出す。どこまで言って良いのかな。実はファザーなんだよ、とか?

「次はそれだ。寄越せ」

「ほいさ」

 受け取って直ぐページをはらり。うーん、今日はもう遊んでもらえなさそう。

 仕方が無いので、読んでいる彼をじっくり見ることにする。すん、とした整った横顔。誰も寄せ付けなさそうな顔だけど、よく観察すれば蒼い瞳が優しいことに誰もが気付く。その瞳は今、静かに文字を追いかけていて・・・・・・。

「おい?」

 あ、かおがやっとこっちみた。うん、やっぱり、読んでる横顔もカッコいいけど。

「正面からのが、いちばんすき・・・・・・」

 旦那が何か言ってるきがするけど、オレはもう、ユメの中だった。

 

ーーー

 

「オレがもし現役の王子サマだったとして」

「一応ありえた分ツッコみ辛いな」

「王子って、具体的に何するのかな。え~っと、『王子 仕事』」

「急に馬鹿」

「なになに、礼儀作法、武術、外交視察、治世の勉強」

「今とあんまり変わらないんじゃないか」

「うーん、株なら見てるけど、政治はどうかな。あ、中世だけど、そういうシミュレーションゲームあるじゃん。やってみよ」

 

「常時平穏安定、民からの支持も万々歳な上で世界征服ができた」

「・・・・・・現代で良かったな」

 

ーーー

 

 旦那が珍しく電話をしている。

「ほお、あの泣き虫が昇進。世も末じゃ無いか?」

 多分、ガイルの旦那かな。内容もそうだけど、いつもよりことば選びがワルい。アザムだったらマジ怒りする類だ。

「いつぞやみたいに『ワニに食べられる~』って、ほら、下半身丸出しででてきたあれだよ」

 当然だけど、オレに見せる顔と、ガイルの旦那に見せる顔は違う。心理学ではペルソナがどーかって、前に聞いた気がする。

 ま、別にね。羨ましいわけじゃないから。オレにだけ見せる顔だってあるわけだし? そもそも一緒にいた時間が違うんだから。つまり勝ち負けとかじゃ無くて。

「そろそろ切るぞ」

 終わる? 随分話してたもんね。オレとしてはもうちょっとワルな会話聞きたかったんだけどね。残念だな~。

「可愛い恋人が待ってるんでな」

 はい、オレの負け。

 

ーーー

 

 旅行に行っていたラシードが帰ってきた。両手いっぱいに土産を抱えながら。

「はい旦那おみやげ。ミョルゲポッピ族の名産品、呪いの鉄仮面」

「いらん」

「ジェッセダ・D・ヒュッテル伯爵が秘蔵していた翡翠のミーアキャット像の複製は?」

「何処に行ったんだお前は」

 旅行帰りのこいつは、本当に心から楽しんだんだろうというのが肌に伝わってくる。様々な世界を巡り、純粋な成長を遂げる様は見ていて爽快だ。土産のセンスは何処に行っても成長しないが。

「良い感じの闘ってみた動画も撮れたんだ。アップするのが楽しみだ」

「ミョルゲポッピ族戦は伸びるかもな」

「そう? まあ青龍刀出してきたのはビビったけどさ」

 この青年の行く先がどこまでか。可能な限り見届けていきたい。

「あ、伯爵戦だけ先に観てよ! まさかのトンプソン銃に加えて分身までしてきてさあ」

 その前に。

「旅行中、ぜっっったいアザムから離れるなよ」

「え? うん・・・・・・なに急に?」

 危機感も成長してくれ。頼む。