映画で米軍が出てくると、ラシードがよく質問をしてくる。
「移動中歌うのってよくあること?」
「めちゃくちゃな暴言吐く上官とかいた?」
「やっぱ最後は#$%@とか言っちゃうの?」
くだらない上に余計な知識を与えたくないので全部無視している。下手するとあの従者にコンプライアンスについてくどくど言われる可能性もなきしもあらず。なので、出来れば出てこない映画が好ましいが、今だ米軍は諸監督に愛されているらしい。
「実際に軍がカイジューと闘ったらさ、勝てると思う?」
ホームシアターの映像は怪獣のビームでハリアーがばしばしと虫のように蹴散らされているシーンを映していた。言いたいことが無いわけではないが、やっぱり今回も黙っておく。
「でもさ、相手も生き物なわけだから、絶対に弱点はあるよね。こっちだと結構無差別に攻撃してるけど、旦那だったら冷静に見極められるんじゃない?」
無視。
「きっと最高にイカすだろうなあ。ここだ! って判断して発射ボタンを押すあんたの横顔!」
無視無視。
「んでさ、バーンって倒した後『オールクリア』なんてクールに呟いちゃってさ! くぅー、かっこい~~!」
「黙って観てろ」
「ええ~」
可愛いんだよ、#$%@.
ーーー
「大昔に書いたコメント、リスナーに拾われてへこむ」
「お前が悪いだろ。自分より下の奴を煽るような狡い真似をして」
「そ~なんだけどさあ。でもオレだって頑張って・・・・・・はあ」
「精々炎上だけ気をつけとけ」
「はあい」
「本当にいつか炎上しそうで気が気でない」
「解ります」
「だが動画撮影しているアイツは楽しそうだから止めるのは気が引ける」
「解りますぞ」
「伸びて欲しい気持ちもあるが、伸びなくてもいいという気持ちもある・・・・・・くっ」
「大事にならぬよう、我々できっちり見張っておきましょう、ナッシュ殿」
「はあ・・・・・・・・・・・・」
ーーー
「海に行かないか?」
そう言われて、とっさに「嫌だ」と口にでた。ナッシュの旦那は驚いたが、オレはもっと驚いた。
海。母なる海。嫌いなわけじゃない。でも映画なりゲームなり、「物語」で出てくる海は大抵、始まりか終わりかだ。旦那とオレとの物語はもう始まっている。そしたら、じゃあ、海に行くことは、終わりじゃないか。
なんてとんちき、言えるはずも無く。
あーだの、うーだの唸ってたら、旦那に手を握られた。
「言い方を変えよう」
「デートに行かないか?」
ーーー
お前のやるゲームは何時見ても同じなように思える。そんなことを前にぼやいたら、「ぜーんぜん違うから!」とラシードに笑われた。他意は無いにせよ、そう言われるとムキになってしまうのが自分の悪い癖で。
「見るの? 後ろで? いいけど」
椅子を引っ張り出して、ゲーム開始前のラシードの後ろを陣取る。ラシード自身は特に気にしてないようで、ヘッドセット(何故か光っている)を装備すると、マウスとキーボード(これも光っている)を何回か操作した。
「げぇ、メトロシティかぁ。壁多くて嫌いなんだよな」
右下のは恐らく弾薬数か? それとA、B、Cと書かれた黄色い丸。制限時間らしきタイマーが画面上にある。キャラの移動速度は尋常じゃ無く速い。
「マイン置いたよ。カードって今ルーク持ってる? あい了解」
5:5と書かれてるのは、チーム数か? 銃撃戦として適切なのか?
「UTLきた? 前出る? よし、行っちゃお!」
次の瞬間、馬鹿でかい竜巻が複数出てきた。と思ったら炎の玉も右から出てきてシールドのようなものも出てきてミサイルだのドラゴンだのブラックホールだのミイラだのも四方八方から――
「分からん!」
「わあ!?」
分かってたまるかこんなもの! 好きに遊べ!
立ち上がり、椅子と共にベッドへ行く。今はぎらぎらした煩雑な画面より、紙に書かれた清楚な活字が恋しい。
「ごめん、あの、なんつーか。猫が暴れたって感じ?」
最後に見た画面には、LOSEの文字が表示されていた。
ーーー
ドローン片手にラシードが嬉しそうに部屋へやって来たのでとっさに「断る」と言った。
「まだなんも言ってない」
「ドローンで動画撮りたいから旦那撮影手伝ってー! だろ」
「す、すごい! 一言一句正解! じゃなくてぇ、頼むよ。アザムは今日別の仕事で忙しくてさあ」
お願いお願い、としつこく迫られたので、仕方なく付き添うことにした。撮影場所は庭だ。
「じゃ、技出すからかっちょよ~く撮ってね!」
バチコーンと音が出そうなウィンク。調子の良い奴だ。
が、技のキレは鍛えているだけ見事だ。チョップの際の腕は力強く、且つ全身を柔らかく動かしているのがわかる。であれば映すべきは肩甲骨を含めた背中の筋肉か? 腰骨も捨てがたい。次は風を出す攻撃か。湧き上がる風も見物だが、「頑張って出す」と当人がよく語るように、全身を映すほうが美しいだろう。ふむ、できればスローであの見事な回転を見せたい所だが、まあ次だ。ジャンプ、まあ、一回転して敵から目を離すのはいただけないが、跳躍力はたいしたものだ。あの白いパンツの中に隠された脚では、一体どんな動きがなされているか・・・・・・。
「えと、旦那」
まだ途中だろうに、何故かラシードが気まずそうにこちらにやって来た。
「なんだ、まだいくつかあるだろ」
「そうだけどさ、あのー、旦那が」
「私が?」
「ドローンと一緒に旦那の目がさ、じろじろ~っていうか? し、視か・・・・・・とにかくもう取れ高バッチリだから! ありがと~~!!」
ラシードは見事に私からドローンのコントローラーを奪うと、一目散に逃げてしまった。そして、いつまで待っても私の撮った動画はアップされなかった。そんなに上手くなかっただろうか? が、何時聞いてもラシードは答えず、謎は迷宮入りとなったのだった。