「次回動画の企画会議を始めまーす」
「いちいち私を巻き込むな」
「いっこめ、『サメだらけの海にケージダイビングしてみた』」
「まあ、いいんじゃないか」
「採用っと。にこめ、『ジャングルに潜む謎のゴールデンゴリラを探してみた』」
「いるといいな」
「採用。みっつめ、『視聴者と一日デートしてみた』」
「あまり刺激的じゃないんじゃないか?」
「じゃあ、バツっと。最後、『恋人と一緒に闘ってみた』、なんて」
「あのな、何度も言うが、私はお前の動画に出るつもりはない。ひとりで勝手に・・・・・・なんだその顔は」
「いや、あんたがオレのこと恋人と認識してるんだなーって、思うと、なんか、てへへ・・・・・・。あれ? 旦那泣いてる? ねえ?」
ーーー
ナッシュの旦那はキザなところがある。うーん、いや、そうだね。ところがあるなんてもんじゃないか。キザか。オレもこだわりはある方だけど、旦那と比べちゃうとそよ風みたい。油断すると吹き飛ばされちゃいそうなところが格好いいとオレは思っている。思ってはいるんだけど。
「でも誕生日に枕元へバラ一輪置いとくってスゴくない!? オペラ座の怪人!! どう思うルーク!?」
「知らねぇ」
ーーー
四つ葉のクローバーを庭先で見つけた。いや見つけたからなんだ。何で私は咄嗟に摘んでしまったんだ。珍しいもの、幸運のシンボル。果たしてこの国でも同じ認識だろうか。いや、疑問がすり替わっているぞ。どうして今、手に取っているかを自分に説いているんだ私は。無闇矢鱈に草木を傷つけるんじゃない。こんな子どものようなことをして、どう落とし前つけるつもりだ。このまま捨てる? 冗談じゃない! 水に指す? それこそ冒涜だ! クソ、こんな、草ひとつで、ぐるぐると、情けない。そもそもだ、見つけた瞬間、あいつが喜ぶかと思ったのが悪いわけで。
「旦那、こんなところでどうしたの、お腹痛い?」
「・・・・・・・・・・・・やる」
「え? ああ。え? ありがと・・・・・・どゆこと?」
全く、たった今、嫌いなものが増えた!
ーーー
「死んでるんだぜ、あいつ」
何にも分かってねぇ、とぼけた頭に何かをぶち込みたくて、幸せそうな顔をしているときにそう返した。本気で殴られるか、表情が消えるか、はたまた本当のアホか。答えはどれでもなかった。
「エド」
柔らかい物言いは、転じてナイフの様だった。
ーーー
ここじゃめったに降らない雨が降った。砂漠に落ちる雨粒を想像して、大いなる自然を想像する。
「痛む?」
ラシードが心配そうに覗いてくる。此奴が身体をとやかく訊くことも――恐らく要らない気を張っている――すっかり減ったが、珍しい雨が突き動かしたんだろう。
「いや」
「そっか」
心配そうな表情は変わらない。それほど私は嘘をついてきただろうか。まあ、そうかもな。だが、今お前だって、嘘をついた。だから虚を突く。
「問題ない、そら」
忌々しい手をラシードへ差し出し、誘うが如く指を振る。さあ、どう来る。きっと想像を超えてこい。大いなる自然なんか、ちっぽけに感じるくらいのものを。
僅かに、震える音が聞こえた。