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無題

※生きてて多分一緒に住んでる

 

 広大な砂漠へ沈む夕日が好きだ。砂丘の影でくっきりと分かれる黒と橙。昼間眩しい太陽が僅かな間だけこちらに寄り添う時。見たことのない絶景はまだまだ沢山あるけど、ここが一番キレイだなって未来のオレは言うと思う。おお、我が愛しの故郷・・・・・・。
「悦に入ってるようだが、見てるのか」
 雰囲気につい浸っているところをナッシュの旦那に見抜かれた。優雅に飲むはずだった珈琲をむせかけて、なんとか耐える。
「こほん! 見てますとも」
「そうか」
 今日の夕日は格別そうだと、旦那をお気に入りの場所まで連れ出したのが一時間前。旦那は行くのをめちゃくちゃ渋ったが、「じゃあ旦那より先に弟子君に紹介しようかな」と言ったらいつのまにか無言でオレの背後に立ってた。まあ、旦那の気持ちを利用したオレも悪いから何も言わないけどさ。
 こうして無事ふたり、砂漠の上に椅子を並べて夕日を眺めるまで至ったわけだ。珈琲と軽食もアザムに用意してもらって、気分はピクニックだ。夕方からのピクニックってのも、なんだか乙だな。弟子君を呼ぶときもこうしようかな。
 肝心の旦那のほうを向けば、じっくりと陽が沈む光景を見ていた。その表情は特に変わりなく、まずったか、と思う。旦那もきっと、なにかしら心動くと思ってたけど、もしかしたら違っただろうか。気に入った? とか、キレイだろ? とかいろいろ思いつくものの、どれも催促しているようでイヤだ。うーん、と思っていると、旦那が息を吸った。
「そろそろ夜になるぞ」
 うげ。本当だ。あんなに大きかった光は大体が沈み、一等星すら見え始めている。流石に夜の砂漠の準備まではしていない。
 まあ、仕方ないかな、と思うことにした。自分が好きだからって、相手も同じになるなんて難しい話だ。それに、無理に引き出してしまったら、オレがここを好きな気持ちも嘘になりそうで。
「お前らしくもないな」
 つと、優しく手を握られる。さっきまで珈琲カップをもっていた掌は温かい。
「人の『好き』ばかり気にしてるからだ。自分のことになると、過信しきれない」
 返す言葉がなかった。そうだ、この人は人の弱いところが解るんだ。それを責めに使うか、優しく手を差し伸べるかは、相手次第。そして今は、うんと後者だ。
「いつも通り、聞いて、解ればいい。それだけだ」
 こつり、おでこが合わさった。どんな小さな声でも聞こえる距離だ。だったら、何だって聞いてもらえる。自信のないことも、甘えるようなことも。
「この景色、好きなんだ。あんたも・・・・・・好きになってくれる?」
「ああ、好きになった」
「気に入った?」
「そうだな」
「キレイだろ?」
「キレイだ」
「そう思うのって、掛け値なしに? それともオレが好きな景色だから?」
「もう解るだろう」
 勿論、の意味を込めて、オレは唇を寄せた。