「旦那ってやっぱモテた?」
暇そうにスマフォをいじるラシードがそう訊いてきた。というよりホ
「だったら何だ」
「お、否定なしじゃん」
せーいちぃーと、緩くスマホのカメラを向けられた。少しじらして
撮った写真を見て、彼は嬉しそうに「男前」とつぶやいた。
そうだ、たんと喜べ。今、私はお前のモノなのだから。
ーーー
刃みたいな強烈なキックを受けて吹き飛ばされた。背中で地面を打
「あー、今日いい空だねぇ」
晴天に圧倒されて、起き上がる気が失せた。嫌なくらい身体が重た
「・・・・・・満足したか?」
ナッシュが顔を覗き込んできた。何戦か付き合わせたせいで、流石
「してなさそうだな」
「へへ」
「これ以上はお断りだ」
「ちぇー」
ナッシュは大の字になっているオレの横に座った。手は差し伸べな
憂鬱のきっかけは、ほんの数時間前の闘ってみた撮影。対戦相手は
羨ましい、と思った。
「このままさ、いーっぱい闘って、オレってどうなるんだろうね」
ファイトは楽しい。闘ってみたの動画配信だって楽しい。けれど、
何かすっごいさらけ出しちゃったな、と急に照れくさくなり、ナッ
「お前次第だな」
「だよねぇ・・・・・・」
「ふ、迷え迷え」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
さっさと立ちあがって先に行くナッシュを急いで追いかける。不思
ーーー
ルークとのゲーム通話を終えた後、当の本人からわざわざメッセが
『言いづらいこと言うんだけどよ』
なんだなんだ。そういえば通話切る直前、なんか顔色がおかしかっ
どうしたの、と返すと、途切れ途切れに返答が来た。
『その』
『お前の』
『ベッドのとこ』
『ゆ』
『ゆ』
『なんかいた』
幽霊の絵文字を送れば、返信が完全に止まった。あっちは確か今真
「何を笑っている」
「んー? 楽しい友達だなぁって」
「・・・・・・終わったならはやく来い」
仰せのままにとベッドへ向かう。ずいぶん待たされた幽霊さんは、
邪魔したくないのは分かるけど、気配消すのは止めた方が良いかも
ーーー
「おい、スマフォ中毒。バッテリー持ってンだろ。ちょっとアタシに寄こしな」
「うーん。斬新なカツアゲ。タイプこれかな。はい」
「チッ、報告だけ聞きゃいいのに、ぐだぐだ小言言いやがってクソ
「相変わらず荒れてんね。ん? はーいもしもし?」
「充電早いなこれ」
「・・・・・・あー、いや、大丈夫。変わりないよ。急にかけてく
「・・・・・・なあ、終わったんだけど」
「あっヤバ。うん、あの、居ますけど。なんで分かったの。勘!? 怖すぎない? 偶然同じ国にいるだけだって。変なことしてないから。もー、ねえ
「はー・・・・・・オシアワセニー」
「アザムだっているし平気平気。心配してくれるのは嬉しいけど、
ーーー
背後で馬鹿でかい音が聞こえたと思ったらラシードが本棚から落ち
「だんなぁ」
「知るか」
此奴の抜けっぷりは中々だ。そのくせ直ぐ調子に乗るもんだから、
「もうちょーっとだったんだけど」
「そういうところだ」
「でもほら、あったよ。これだろ?」
掲げられた本は、確かに私の探していたタイトルだった。大昔に読
「それ、読んだことないな。感想聞かせてよ」
ラシードは満面の笑みでそう言った。探した苦労も、なんてことな
過るのは、顔すら知らない存在のこと。
(お前はどうだった?)
残念ながら、私が死者と云えど答えはなかった。
まあ、いつかの日にな。そう思いつつ、私は本を受け取った。