月明かりがうるさく目が覚めた。窓のカーテンから細い光が伸びて
――こいつはダメだ。
咄嗟に手で光を遮った。継ぎ接ぎの手は、より青白くなった。
この手が表す通り、私の身体は死者だ。時は止まり、明日にでもすべてが停止してもお
月が雲に隠れたのをきっかけに、半身を起こして寝顔を拝む。褐色
もしも、このままにできたら。死者の手が、誘われるようにラ
ビジョンが見える。
ふと、聞こえていた呼吸音が変わった。生者の呼吸だ。急いで手を引っ込めたが、時すでに遅しだった。
「眠れない?」
うっすらと開かれた目がこちらを見て
「ん。ごめん、驚かせた」
動揺する私を助けるように、雲が晴れて青白い光がまた部屋に差した。ラシードはゆっくり起き上がると、その月を見上げた。
「悪い夢でも見た?」
「・・・・・・そうだな」
「どんな夢?」
「とても幸せで、安心のできる夢だ」
「聞く限り、いい夢だと思うけど」
「ダメなんだ。お前の不幸の上に成り立っていたから」
少し押し黙って、へえ、とだけ返ってきた。
「お前には、楽しんで生きてほしい。そう思っている」
息を吞む音と共に、ラシードはこちらに振り返った。月明りを背にした彼の顔は見えない。だが、光で曖昧になった彼の身体の線は、まるでその中に飲まれていくようで。または、誘われているようで。
ベッドから抜け出し、窓際まで行ってしっかりとカーテンを閉めた。腕の中のラシードは、ぼんやりこちらを見上げている。
「寝るぞ」
「旦那」
漸く邪魔者がいなくなったのだから、今はとっとと寝るだけだ。何か言いたげなラシードを抱きかかえ、無理くりベッドに放り込む。
「明日早いんだろ」
「そもそも起こしたの旦那・・・・・・わぷ」
よくしゃべる頭を胸に引き寄せてやれば、予測通り大人しくなった。温かな体温が私に移ってくる。これなら直ぐ眠れるだろう。
「・・・・・・勝手なんだから」
その声は、聞こえないフリをした。