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小ネタ03

 さっきからちょくちょく部屋に風が舞う。ラシードがゲームのロード時間の度にソファから立ち上がってジャンプだの何だのをしているせいだ。どうやらシーンを遷移? すると毎度入るらしいのだが、よく分からない。いい年をしてたかが数十秒も落ち着けないのか。おかげで髪が乱れて仕方ない。
「おい、画面変わったぞ」
 ラシードはたっぷりスピンをした後、優雅に決めポーズをした。止まる時までやかましい。
「耐えきれないんだよ」
「ご苦労様だな」
「旦那は平気なワケ?」
「好ましくはない、が」
 が? と催促される。
「ぴょんぴょん跳ねるお前を見るのは、愛おしい気持ちになるな」
 ラシードは暫く呆然とした後、すとんと私の横に座ってゲームを再開した。当然、ロード時間はやってくるが、少しそわそわしつつも、大人しくしていた。冗談半分で言ってみたが、思っていた以上に効果があった。――そんな所も、愛らしく見えるのが分からないのか? 追撃の言葉は、髪型の安寧のために飲み込まれた。

ーーー

 動画にはいろんな人からコメントが来る。基本、ファイトが好きな人たちばかりだけど、中には煽ってくる人とか、気まぐれに誰かを攻撃したいだけの人とか、まあ、世界広しだよね。できることならご勘弁願いたいけど。
 そんな中で、最近「あら?」と思ってるのが、毎度オレの容姿を褒めそやす人だ。その褒め方がなんというか、情熱的というか。いや、このラシード様だからね、かっこいいって言われるのは悪くない気持ちなんだけど。でも胸筋をどうこうしたいとか、手首をほにゃららだとか、髭を・・・・・・髭を!? みたいな、流石にかなー、うーん。
 という風に悩んでいるところをナッシュの旦那に見つかって大変ピンチです。
「消す」
 さっきから旦那は同じことしか言わない。めちゃくちゃ怖い。
 でも、人の機微に明るい旦那なら、こういう人は刺激しちゃいけないことくらい分かってるはず。事は複雑なのだ。
「あと過去こういう人は稀にいたし・・・・・・」
 オレだって配信歴は長い。だから、任せてほしいところではある、のだけど。
 なんか旦那からオーラが出てる。真っ黒の、ラスボスが出すような
「全員消す」
「なんでぇ!?」
 その後、暗殺ルートはなんとか回避したものの、オレの動画には暫くコメントができないよう強制されたとさ。とほほ。

ーーー

「我はランプの魔神」
 本から顔を思わず上げてしまった。目の前には、したり顔で腕組みをしているラシードがいた。難航していた商談が済んで機嫌がいいのはわかるが、どうして直ぐ調子に乗ってしまうんだコイツは。
 本を閉じ、ソファの肘おきに置く。負けたのは仕方ないので構うしかない。
「何の用だ」
「おやおやおやぁ、ランプの魔神のお約束、ご存じでない?」
「コイツを自由にしてやってくれ」
「あっ、それもあるけど、もっと手前の」
「外に出してくれ」
「もーちょい、いや結構後」
 三つの願い、か。今更王子になりたいだの金持ちになりたいだの(そういえばどちらもラシードに当てはまる)望むことはない。とはいえ何かしら言わなければ茶番は終わらないだろう。
 ぽんぽん、と自分の横を叩く。
「ひとつ目、ここに座れ」
「はい」
 疾風のようにラシードが横に座った。
 次は自分の肩を叩く。
「ふたつ目、ここに頭を預けろ」
 ほんの少し間があって、おずおずと頭が乗った。
「三つ目。目を瞑って、ゆっくり休め」
 肘おきの本を回収し、再開する。さて、どこまで読んだかな。
「・・・・・・四つ言ってない?」
「私の願いなら無限だろ」
 さえずるような笑い声が、優しく耳を抜けていった。

ーーー

「最近アップした動画がさ」
「炎上したか。自業自得だぞ」
「前提~。違う違う。すっごい伸びたの」
「なんだこの動画」
「アザムが加盟してる執事同盟の通信動画」
「どうした?」
「これ新作、『突然の暴漢にも! 主従でできるコンビネーションアタック五〇』」
「五〇」
「オレも協力したんだぜ、かっこいいだろ」
「竜巻がでてるが?」
「あ! 見てよこのS・R・Kからの上からアザム! K.O間違いなしって感じじゃない?」
「こっちは精神に来てるぞ」
「一般向けに限定公開したら案外跳ねてさ。暴漢対策というよりオレとアザムのコンビネーションがウケてる感じなのは不思議なんだけど・・・・・・」
「今日は話を聞かない日なのか?」
「というわけで旦那、『突然の暴漢にも! 三人でできるトリニティアタック百選』っていう企画書がここに、あっ、旦那!? 旦那どこ!?」