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小ネタ02

 

「ドキドキわくわく、株クーイズ」
 タブレットが読んでいる本を遮る。ようやく母親が犯人グループから身代金の要求を聞き出せたというのに。
「これは買い、様子見、どっち!?」
 数字が並んだ画面を一応見るが、十分な情報がない内は分かるはずがない。
 なにより、疲労困憊なラシードの顔がうるさい。
「お前、私の勘に頼ろうとしてるだろ」
「時にはそういうのも必要かと思って」
「読み切るのがお前の責務だろ」
「えーん。ごもっとも」
 ラシードはまたああだこうだとうなり始めた。何事にもスマートにやりたがる此奴が、ひとつのことに悩み続けるのは本望じゃないだろう。だが、私がすることは万に一つもない。

 そういえば、と気になった。
「もし買うと言った場合、いくら動く筈だった?」
「え? えーっとね」
 それはサム少年のゆうに五倍あったので、私はまずラシードの頬をつねった。

ーーー

「星が見えない日は少し不安になるんだ」
 夜空を見ているとラシードが隣にやってきた。手に持ったマグカップはおそらくコーヒーだろう。寝れなくなるぞと何度注意しても、こいつは聞きやしない。
「血筋ってやつかな」
「砂漠の民、か」
 雲間から僅かに星が覗いた。ラシードが名前を言う。他の星との違いは私には分からないが、こいつの言うことが正解と言うことは分かっている。
「でも、オレの行く先は風が教えてくれるさ」
 ふー、とラシードがコーヒーを冷ます。いとも簡単に飛ばされた湯気が、自分の幻と重なった。

ーーー

 フライトシミュレーターなら幾度もこなしてきたが、だからといって家庭用のゲームも得意というわけでない。Rがショットで、L3がしゃがみで・・・・・・ライトはどれだったか?
「くっ・・・・・・」
 やってみる? と誘われ、ラシードからコントローラーを預かってから数時間がたった。ここまできたらもう意地なのは理解している。もしかしたら次は。今度はこうしたら。嗚呼、自分の悪い癖だ。
 ふと、ゲーム画面が突然閉じた。横を見れば、ラシードがマウス片手に澄ました顔をしている。
「おーしまい」
 眼鏡を奪われると、ラシードの手が労うように私の目を覆った。温かなそれは、ゆったりと脳を冷静にさせてくれる。
 この温もりがもし、過去にあったなら。ありもしないことを夢想して、暗闇の中息を吐いた。

ーーー

 スマフォの画面をよく見えるように差し向ける。
「バッテリーが過去モデルのなんと五倍、課題だった画質も向上させつつ、ボディをスリムにさせた開発者の技術の結晶、これは買わない方が失礼じゃない?」
 必死の猛攻も敵わず、購入キャンセルのボタンがタップされた。ああ、キャンセル待ちしてた人、おめでとう。
「今月はもう買わないとアザムに宣言したにも関わらず、隠れるように購入する方がよっぽど失礼だろう」
「ぐぬぬ」
 まあ、ナッシュの旦那に最新ガジェットが刺さるなんて思ってない。それでも、足掻くだけの価値があったんだ。あったのになぁ。
「旦那、最近アザムに似てきた」
 お目付役がふたりに増えた気分だ。アザムだけでも抜け目ないってのに、これじゃ雁字搦めだ。
 ナッシュは何故か考え込んでいる。オレは変なことを言っただろうか。
「それは・・・・・・」
「うん?」
「お前のことが好き、という点でか?」
 どこからその結論に? このタイミングでデレることある? アザムにも被弾してない? 言いたいことを考えている内に、何となく理解して、「うん」とオレは答えた。