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理性

「鰻と枝豆の煮凝り、辛子柚子ソースを添えて、や」

 岡持を片手に俺の事務所にやってきた真島は、挨拶もないまま料理を数点机に並べた。

「これがクラムチャウダー、これが肉あんかけチャーハン、そしてフォー」

「統一せい」

 どうやら最近料理に凝っているらしく、昼の時間になると出前しにくることがままあった。暇なもんだと思うが、最近でかい山をウチに丸々渡してくれた関係上文句も言い辛い。それに。

「……美味い」

「せやろ」

 まったく、言い辛い。

 

 天才肌というべきか。

 昔から、物事の習得に尋常でなく長けていた。喧嘩は勿論、裏表問わずの仕事まで。常人なら一長一短で済まない数々を、真島は要領よく会得してしまう。

「見とったらピンときたわ」

 と本人はよく言った。

 たまったものじゃないと思うが、だからこそ真島は自分より強い人間が格別好きなのだとも思う。誰もが不完全に生を感じている中、嫌でも器用になってしまうのは、とてもつまらないことだろう。アイツには、退屈を文字通り拳でぶん殴ってくれる誰かが必要なのだ。目指す先があると思うために。

 てっぺんを目指すなら、こんな男が隣にいてこそだと昔の俺は思っていた。安寧か破滅かを選べと言われて、ふと後者を手に取りそうな振る舞いが危なっかしく、故に離し難い。此奴と兄弟であるために、俺は牙を研ぎ続けよう。そう考えいた。

 

 長い年月が経った。十何年の間に、真島は随分背負うものが多くなった。東城会の大幹部、千を超える組の長、伝説の二文字。どれだけ苦しくとも、逃げる道を選ばないのが腹立たしい。心底惚れた男が、他人というしがらみで雁字搦めになっていく様を、昔の俺はどう思うだろうか。

 背に負った虎が時折吠える。

 あいつらを全員喰らえ。

 誰も近寄るな。

 兄弟を殺すのは、俺なのだ、と。

 

「ごちそうさん」

「おそまつさん」

 流石にシチューと味付き飯は合わなかった。せめて和洋中だけでもリクエストさせてくれと思う。

 一方、真島は完食した皿をごきげんで片付けている。

「ぎょうさん食ったなぁ」

 ぴくり、眉が上がった。そういえば、器用なこいつにも中々得られないものがあった。よりにもよって、かなり俺の気に障る部分なのはどういう因果か。

「なんや、変なこと考えとらんか?」

「岡持似合わんなぁ思とるで」

「いーや、絶対ちゃう! なんや兄弟、なんや!」

 もう少しで昼が終わる。ぎりぎりまで、このインチキ関西弁を愛そうと、俺は策を巡らせた。