「おう、すまん、寝とったか?」
「んー……気にせんでええ。珍しいな、兄弟からかけてくるの。どないした?」
「細いカタカナしか打てんくなったんや」
「ん?」
「普通の文字打ちたいんやけどな、何しても細っこいカタカナしか出てきいひん」
「ああ。あー。スペースキーのよこっちょにな、英語の下に『無変換』って書いてあるキーないか?」
「ある」
「押してから文字打ってみ」
「……ひらがなや! ひらがなが出たで! 古き良き日本語や……!」
「カタカナも大体おんなじ時代やで」
「おおきにな。遅いとこ悪かった」
「あんま無理せんようにな。おやすみ」
「ぁい、もしもし、兄弟? また?」
「ほんますまん。助けてくれ」
「どうした次は」
「変えたとこを残したまま変えれるやつなんやったか」
「なんて?」
「文字を消してもそのまま棒線引いて残してくれるアレや」
「わあった。いちばん上に『校閲』ってあるやろ」
「校閲」
「ホーム、ファイルぅ、えーわからん。それ並んでるとこのひとつ」
「あった」
「押した? 押したらそこに『変更履歴の記録』みたいなのがあるはずや」
「これや! 思い出した! これやこれや」
「よかったなぁ。前みたいに変更したとこだけ明朝体からゴシック体にされたらかなわんからな」
「わかりやすかったやろうが」
「腹痛くなるって意味や。もうないな? 眠いし切るで」
「おお、助かったわ。おやすみ」
「まじま……」
「……なっさけない声やな。怒る気失せたわ」
「画面が真っ白になって動かへんのや」
「……立つんだジョー言うて」
「兄弟、本気で困っとんのや」
「そうなったらアレや。前教えたやろ。タスクマネージャー」
「殺せ言うんか。この一時間を」
「一思いにやってやり。パソコンさんも苦しんどるで」
「くっ……ぐっ……ああ……」
「南無……。なあ、大丈夫なん? 帰られへんとちゃうの?」
「なんとかするしかないわ」
「あっそ。好きにせぇ」
「真島か? どうし」
「おうコラ兄弟! もーアカンねん! またいつかかってくるか気になって寝られへん! 今からそっち行って横で見たるわ! 首洗って待っとけ! ほな!」
「あ、おい」
「データ残っとってもう終わりそうなんやけどな。まあ、一緒に飯でも食いに行くか」