「しもた」
自動ドアの向こうには雨模様が広がっていた。出しなも雲行きは怪しかったが、近所のスーパーだからと傘なしで来てしまった。限界まで詰め込んだ買い物袋が、より気分を憂鬱にさせる。
エントランスには立ち往生する人が二三いた。電話で家族を呼んだり、諦めて雨下に飛び込んだりと動きはばらばらだ。悩んでいる間にも、雨はますます酷くなっていく。仕方ない、走るかと思った矢先、家で待っているはずの真島がこちらへ近づいていることに気付いた。
「蛇の目直々のお迎えやで」
「随分ごつい蛇の目やな」
カラカラと笑う真島から傘を受け取る。お返しに買い物袋を差し出してみたが、目線だけで断られた。
「コロッケ出来立てやったで」
「ほんまか! ならはよ帰ろ」
応と返事して歩き出した。ふたり並んでの帰る路。空は未だ灰色だが、先ほどのような憂鬱さは微塵もない。そんな想いを知ってか知らずか、真島は調子よく歌い始めた。
「あめあめ、ふれふれ、はんははんははん」
「ちゃんと歌いや」
「ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃっぷ、らんらんらん」
向かいから来ていた学生が、あからさまに歩く速度を上げて横を通り過ぎた。いかつい男が機嫌よく歌っていれば仕様がない。怖がらせてしまって申し訳ないという気持ちと共に、許してくれないかとも思う。
――じゃのめで おむかい うれしいな
嬉しくてたまらないのだ。こいつも、俺も。