目ん玉が片っぽだけの紋々の男だろうと、誰もが慄くタッパを持った筋骨隆々の男だろうと、襲いかかるチンピラ共がいるのがここ神室町だ。確か、金寄越せと啖呵を切ったのは今しがたノシた此奴だったろうか。アカン、顔殴りすぎて分からん。
「兄弟、終わったで」
「こっちもや」
冴島の腕からオートバイだったものが地面に落ちた。この通りは駐車禁止の筈なので同情の余地はない。
そういえば、兄弟側には少々骨のありそうな奴が数人飛んで行ったと思い出す。
「どうやってん? そっちは」
「アホとボケとカスやった」
「ヒヒッ、やめぇや、急に笑かすな」
冴島は結構簡単に口が悪くなる。俺はそれが大好物だ。厳格だの聖人だの周りは評するが、上澄みも上澄み。寧ろ若造みたいなもんだと言いふらしてやりたくなる反面、問答無用で止めにかかる自分もいる。美味しい物は取っておいてなんぼだ。
「おい、とっとと行くで」
大股で歩き出した冴島を、駆け足で追いかける。
「逃げやせえへんて」
やっと横に付けば、冴島はまだ「ほんまアホ」だの「邪魔しよってからに」だのとブツブツ呟いていた。なんて可愛い奴だろうか。可愛い可愛い。
この道の先がホテル街なことを含めて、可愛いったらありゃしない。
想定してた一夜より楽しくなりそうだ。感謝料でも置いていこうか、と思った頃には、チンピラは遥か遠くであった。