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お題挑戦

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お題ひねり出してみた

 軒へのお題は『うるさい、わかってるくせに』です。



 いちごのタルト。キャラメリゼバウム。チョコバナナクレープ。フロランタン。どこにでもあるコンビニで買ったそれらは、ワンコインにも満たない代物ばかり。それでも、斉木の欲求を満たすには充分である。
「ほんと好きですね。飽きたりしないんですか」
 呆れる、というより、新しい超能力を体験したような気持ちで鳥束は言った。スフレについてきたフォークを加えながら斉木は反論する。
(お前は女性に飽きたりするのか)
「いいえ全然。むしろ湧き上がる一方っスよ。昨日観たやつとかなるほどそういう箇所にほくろがあるのもまたいいなって」
(もういいもういい)
 素気なく拒否された鳥束は手を持て余した。そんな彼が興味をとられたのは、購入した商品が入った袋だった。何の気なしに、とりだしてひとつずつ机に並べだす。
 色とりどりの包装は、前の鳥束にとっては微塵もときめかないものばかりだった。今彼を動かしているは探究心である。最強の超能力者を揺るがす要因を、もっと単純に言えば、彼が好きなものを、知りたい。
「前のワッフルと、今のミルフィーユだったらどっちが好きですか?」
 斉木は鳥束を一瞥し、考える。
(食感で言えば勿論ミルフィーユだが、見た目として心躍るのはワッフルだな。前に母さんがくれたものはミニサイズが五種類入っていた。あれは良かった)
「へえ。いいですね。あっ、さっきのレーズンバターとシュークリームなら?」
(甲乙付けがたいが、前者だな)
「じゃあ……」
 鳥束は袋の一番奥底にあった品物を取り出す。それは、斉木の知り合いならいの一番に彼の好物と語る、コーヒー味のデザート。
「これと俺なら、なぁんて。ちょ、あっ、いいです! その顔でわかりました! 俺が生意気でしたすんません! 今開けますから!」
 空いた皿がするりと斉木の眼前から奪われ、次いで件のスイーツが飾られた。ご丁寧にスプーンもつけて、不機嫌な彼のもとに手渡された。
「ほんと鬼つーか。鬼畜というか」
(うるさい)
 掬って一口。変わらぬ美味しさだが、斉木の顔は晴れない。
 皿を受け取る時のこと。斉木はつい急き立ち、危うく手でひっくり返しかけた。難は避けられたが、つい鳥束と目があった。ばちりと重なった瞬間、鳥束の眼差しは、ただ優しく、慈しむように細くなった。ほんの一瞬の出来事である。
(わかってるくせに)
 その言葉はテレパシーされることはなかった。