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お題ひねり出してみた
軒へのお題は『近すぎると怖い、離れても嫌。』です。
「あの子喜んでますよ、斉木さん」
にこにこと笑顔の男児を見つめながら鳥束は斉木に伝えた。当の斉木は襟首を軽く整えるだけで、わざわざ確認するまでもないといった様子である。澄ました顔に似合わず、彼の服はところどろに穴が開き、頭は泥まみれになっていた。
ひっでぇ様と鳥束が思うが先か、斉木はさっと一日前に服を戻す。
「あーあ」
(なんだ)
「いや、別に」
男児は既に二人の見えない範囲まで歩いて行った。手元に戻ったロボットのおもちゃについて、彼は偶然手元に戻ったと思っている。しかし、事実は超能力者の並々ならぬ支えがあった。どうしてこう、いつも面倒なことになるんだと斉木はぶつくさ愚痴を漏らす。鳥束は肩をすくめた。
「笑顔が報酬ってわけじゃないなら、やめたらいいのに」
(……何が言いたい)
「いや、あの子を見捨てればいいってわけじゃなくて。俺なら、おかしくなっちゃうかもなって。斉木さん、あんな頑張ったのに全然報われないから。いつか……」
声は段々小さくなり、消えた。が、短い沈黙の後で鳥束の顔はぱっと輝いた。そして、斉木の近くに寄ったかと思うと、急に彼の頭をなでだした。とっさのことで、受け手はあっけにとられた。
(な、お前)
「そうっスよね! 今は俺が見てますから、俺が褒めればいいんですよね! へへ、斉木さんお見事でした!」
制御装置のせいで大胆にはいけないが、がしがしと音がしそうな撫で方だった。斉木は、急いでその手を払いのける。
「ええー。ダメですか?」
(今手首が繋がってるだけでも感謝しろ)
「いい考えだと思ったんだけどなぁ……。ま、いいや。とんだ道草くらいましたけど、早く行きましょ」
四歩鳴った下駄の音は、不自然に止まった。更に不自然なのは、下駄の主の首につけた数珠が、まるで後ろから何かに引っ張られているようになっていることだ。朱の珠はぎちぎちと彼の首に食い込んでいた。
生死の境に近い息が漏れたところで、ようやく数珠は正しい重力を得た。涙目で鳥束は振り返る。
「……やっぱり撫でてほしいんですか?」
(全然)
「いつか怒りますからね」
鳥束は、次からはスイーツにしようかな、とぼんやり考えた。